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2025.07.31

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CINE21インタビュー“堅実で意志の強い、『麹(原題)』監督チャン・ドンユン”

『麹(原題)』の監督として、プチョン(富川)国際ファンタスティック映画祭に参加するチャン・ドンユン
 


"週末ドラマの主人公のようなデビュー話"を、チャン・ドンユンにまた聞こうかと思ったが、やめておいた。おそらくこの9年間で何千回と聞かれてきたであろう話だからだ。

害のない清潔感ある顔立ちのせいか、"傷つきながらも真っ直ぐ育った息子"役を数多く演じてきたチャン・ドンユン。最新作「カマキリ-殺人者の外出(原題)」でも、コ・ヒョンジョン演じる訳ありな人物の息子役として登場する。

改めて彼の出演作を振り返ってみると、その多彩さに驚かされる。1980年代を舞台にした時代劇「オアシス ~君がいたから~」では不運なヤクザを、朝鮮時代の架空の未亡人村を描いた「ノクドゥ伝~花に降る月明り~」では女装をして美しさを披露。「今日もあなたに太陽を ~精神科ナースのダイアリー~」では周囲からの過剰な期待に押されてパニック障害を患う青年を演じ、最近の「砂の上にも花は咲く」では14kgも増量し、シルム(韓国の相撲)選手としてまわしを締めた。映画『デビルズ・ゲーム』では刑事と魂が入れ替わったサイコパス殺人鬼に、『オオカミ狩り』では特殊能力を持つ者を演じ、血まみれの姿からは、あの優しげな顔立ちがむしろ“仮面”だったのではと思えてくるほど。

常に前作とはまったく異なる挑戦をしてきた彼の次なるステップは、なんと映画『麹(原題)』での“監督業”だ。今回は実際に自ら脚本を書き、演出まで手がけた初の長編映画を引っさげて、プチョン(富川)国際ファンタスティック映画祭にやってくる。

もっとも、映画『麹(原題)』の監督に先立ち、YouTubeチャンネル<チャールズエンター>の“月刊デート”も彼の代表作に入れるべきではないかと思う。チャン・ドンユンのファンを公言するチャールズのYouTubeに出演し、ペアルックのパジャマ姿で一緒にトッポッキを作るチャン・ドンユンの清らかで端正な姿は、急上昇1位、再生回数317万回(7月2日時点)を記録。その動画のタイトルは“チャン・ドンユンブームが来る”だ。

そんなチャン・ドンユンブームに期待を寄せつつ、彼とのロングインタビューに入る前に、忘れられない印象的なワンシーンがある。インタビュー後、スタッフたちの重たい荷物を一緒に運んでスタジオを出た彼が、ふと戻ってきた。次の取材のためにスタジオの一角に待機していた別の俳優に、ちょこちょこと近づいていき、「ご挨拶させていただきたくて」と深々と頭を下げたのだ。

監督としての初インタビューということもあり、愛してやまない映画について熱く語り、社会への持論もまっすぐに伝えていた彼を見て、「思っていた以上に芯があり、信念のある俳優だ」と感じた。そしてやはり彼は、世間が評する通り、“模範的で真面目な青年”そのものだった。



堅実で意志の強い、『麹(原題)』監督チャン・ドンユン インタビュー
 


— 映画『麹(原題)』の脚本はどのように始まったのですか?

最初に考えていたのはコメディ寄りのアイデアでした。田舎に行くと、おばあちゃんたちがマッコリをよく飲むじゃないですか。でも「マッコリはお酒じゃなくて薬。体にいいのよ」って言うんです。そこから、「ある醸造所で新型コロナウイルス感染症を終息させる万能マッコリが開発される」というブラックコメディを思いついたんですが、制作の環境的にスケールの大きい話は難しかったので、今の方向に切り替えました。昔、詩を書いていたこともあって、象徴的な表現で物語を綴るクセが出たのかもしれません。麹をモチーフにして話を膨らませていくうちに、周囲に理解されなくても信念を貫く一人の人間の物語にたどり着いたんです。

— 短編『僕の耳になって』ではご自身も出演していましたが、今回は出演されていません。その理由は?

短編を撮ったときに大変だったんですよ。出演しながら演出するって、モニタリングができないから、同じ工程を2回分こなすような感じで。それで、今回はすべてのシーンを完全に監督としてコントロールしたかったので、自分が出るのはやめました。独立映画なのでいろいろ大変だったんですが、パク・ミョンフンさんが快く出演してくれて。本当に感謝しています。

— 舞台は地方で、みんなが互いの家庭事情をよく知っているような地域性がよく描かれていましたね。

ロケーションも周囲の助けがあって成り立ちました。田舎の家や高校のロケ地が必要だったんですが、父が以前、慶尚北道のヨンドク(盈徳)で校長をしていて、映画に出てくる学校のひとつは父が勤めていたところなんです。そして父の同僚がポハン(浦項)に住んでいて、撮影監督と編集スタッフの滞在先を提供してくれました。その先生のお父さんの家を貸していただいて、撮影にも使いました。

— 現場でのチャン・ドンユン監督はどんなタイプですか?

俳優に対してはっきりと要求を伝えるタイプだと思います。俳優としての現場経験がかなり役立ちましたね。監督として俳優を見るとき、もっと配慮もできるし、逆に厳しくなる面もある。俳優がどんなラインまでやれるか知っているので、明確にディレクションしていました。俳優たちも「監督は、どうすればいいのか自分で考えるスキをくれない」と言っていました。たとえば、人が怒るときって「怒ろう!」って意識的に怒るわけじゃないですよね。感情よりも状況に集中するから怒りが湧いてくる。だから俳優には「状況にもっと集中して」と伝えました。

— 脚本を書いて監督に挑戦するのは、俳優にとって勇気のいる選択です。自身の考えを表現することに恐れはありませんでしたか?

政治的なテーマを扱っているわけではないし、個人の信念を描いた作品なので、恐れはまったくなかったです。ケン・ローチ監督のように、社会的な問題を扱う監督が大好きです。最近『麦の穂をゆらす風』を観たのですが、完全に引き込まれました。チャンスがあれば、そういう映画にも挑戦したい。いずれはヒューマニズムを込めた社会派作品も撮ってみたいです。

— 子供のころから詩人や映画監督が夢だったとか。では、夢が叶ったわけですね?

わぁ、本当ですね。夢が叶ったんだ。自分でも予想していなかったけど。
 


— 『麹(原題)』は、見えないものへの信念を描いた作品です。チャン・ドンユンさんにとって信念とは?

麹が本物かどうかは、この映画ではあまり重要じゃないんです。自分の信念に対して周囲がどう反応するか、そこに意味がある。たった一人でも信じてくれる人がいればそれでいいし、その信念をどう貫いていくのかを描きたかった。

— 出演作を選ぶとき、どんな基準で選んでいますか?

撮影時期とか、現実的な制約もあるので、すべて思い通りに選べるわけではありません。だから、できる範囲でベストを尽くせる選択をしてきました。最近はコンテンツの種類が非常に多く、OTT(動画配信サービス)という選択肢もあって、どんな作品が大衆に愛されるか予測しにくい時代です。今はみんなが好きになってくれるかという点を基準にしたいと思っています。もちろん、自分がその役に合っているかどうかも重要です。最近の「砂の上にも花は咲く」はまさにそんな作品でした。脚本も良くて、最後まで大切に演じた作品でした。以前は新しい挑戦を優先していましたが、今は多くの人に愛される作品に出会いたいです。

— YouTubeチャンネル<チャールズエンター>で、「もうジャンルものは終わり!どうかラブコメをやってほしい」と言われてましたよね。たしかに『ロングディ』では恋愛もしていましたが、ビデオ通話だけの距離感のある恋愛でした。

(笑)「砂の上にも花は咲く」もジャンル的にはロマンスだったんですよ。多くの人がシルム(韓国の相撲)の話だと思っているかもしれないけど。やっぱり普通の、王道のラブコメを望まれているのかな?

— ファンとしては、「こんなに素敵なのに、世の中に知られていないのはもったいない!」という気持ちなのかもしれません。

そういう王道のロマンス作品にはなかなか出会えないですね。それに、特別な設定のないノーマルなロマンスだと、僕がやった時にちゃんと魅力が出せるのかな?って不安もあります。何かしらのポイントがあってこそ、自分の魅力をうまく出せる気がしていて。たとえばドラマによく出てくる、財閥の御曹司のような役を僕がやったとして…うーん、それって僕に合ってて魅力的に見えるのかな?って思っちゃうんです。もともと、親しみのある日常っぽいお芝居が好きですし、特徴のある作品に惹かれるタイプなんです。シルム(韓国の相撲)をやったり、女子たちに囲まれてダンススポーツをしたり(「恋のステップ~キミと見つめた青い海~」)、時代劇で女装したり(「ノクドゥ伝~花に降る月明り~」)とか、そういう作品が好きなんです。だから、大企業の理事のような役で、重々しく構えてヒロインをリードするようなタイプのキャラクターは…どうだろう。でも、最近は僕も「皆さんが見たいと思ってくださる作品をやろう」っていう気持ちもあって、自分の意見ばっかり押し通すつもりはないんです。なので、もしこれからいいラブコメ作品と出会えたら、ぜひ挑戦してみたいなって思ってます。

— 「砂の上にも花は咲く」への愛着が強いようですね。何度も挫折しながらも、自分のペースで遅咲きする青春を描いた作品でした。特に心に残っているシーンはありますか?

お父さんに、もうシルム(韓国の相撲)を辞めようと思うって話すシーンがあって。ベクドゥのお兄さんたちもお父さんもみんなチャンピオンなのに、「お父さん、ごめん。俺だってこんなふうに終わりたくなかったけど、結局こうなってしまって、お父さんに申し訳ないし恥ずかしいよ」って言うんです。そのシーンが本当にグッときました。きっと観てくれた方々にも共感してもらえたんじゃないかな。誰しも家族に申し訳ないって感じる瞬間ってあると思うんです。僕も家族にごめんねってよく言うほうなんです。もっと一緒に時間を過ごしたいし、もっと気にかけたいと思ってるんですけど、それがなかなかできなくて、いつも申し訳なく思ってます。

— 「今日もあなたに太陽を~精神科ナースのダイアリー~」や「砂の上にも花は咲く」、「恋のステップ~キミと見つめた青い海~」など、出演作では正義感がありながらもどこか欠けた部分を抱えたキャラクターが多いですよね。

自分としても欠けた部分を表現するのが好きなんです。何の問題もなく幸せなキャラクターよりも、哀しみや辛さを抱えてる人物の方が惹かれます。そういう重要な感情のシーンでは特に集中します。感情が入るシーンは、立ち位置やセリフ、目線まで全部ちゃんと計算しています。どこで感情を爆発させるか、セリフの運びをどうするかっていうのを計算しておかないと安心できないんですよね。

— 出演作では方言もよく使われています。ご出身はテグ(大邱)ですが、「オアシス ~君がいたから~」では全羅道の方言にも挑戦されてましたね。

『ビューティフルデイズ』では延辺の方言もやりました。慣れない言葉を身体に馴染ませることが苦じゃない方なんです。方言は標準語にはない情緒がたくさん詰まってると思ってます。韓国語の豊かな言語資源のひとつが方言だと思うので、それを演じられるのが楽しいですね。同じ慶尚道でもテグ(大邱)とプサン(釜山)じゃまた違うし、方言を使う役が来たら普段からその言葉を使って生活するようにしてます。

— デビューまでのストーリーもすごく特別ですよね。準備が整っていないまま演技の世界に入られたと伺いましたが、専門的に学んだ経験はなかったことへの焦りはありませんでしたか?

演技で大学院に行こうかなって悩んだ時期もありました。ちゃんと訓練も受けないまま現場に放り込まれたから、本当に一から全部ぶつかって覚えるしかなかった。でも、結果的にそれが自分には合ってたんだと思います。最近ボクシングを習ってるんですけど、あれって実戦が重要なスポーツなんですよ。いくらシャドーやサンドバッグやっても、実戦しなきゃ上達しない。演技も同じで、実際に現場でぶつかって完成します。悩みも多かったけど、ずっとリングに上がって体で覚えながらやってきました。自分はまだまだだけど、後輩が相談してきたら実戦での演技の話をよくします。あ、そういえばオーディション前にアドバイスを聞きに来た後輩が、合格したって連絡くれたんです。あれは本当に嬉しかったなぁ。演技より教える方が得意かもしれないですね(笑)。

— ドーパミン中毒が嫌でショート動画も見ないし、お酒も断ってて、普段はSNSもあまり使わないと聞きました。インタビューでは見た目至上主義や拝金主義に対する警戒心もにじんでいましたよね。

ありのままの自分を受け入れられる社会になったらいいなって思ってます。誰もがそのままで美しくて大切な存在なのに、画一的な美しさだけを持ち上げるのはどうなんだろうって。SNSに関しては、俳優として作品を広めたりするためにはちゃんと使います。でも、それ以上に自分の現実の暮らしの方が大事なんですよね。今目の前にいる人とちゃんと会話して、きれいな景色を目に焼きつけたり、おいしいものを食べたり、そういうことが好きです。あ、最近は写真を勉強してて、写真はたくさん撮ってます。

— 写真はなぜ学び始めたんですか?

ずっと前から学びたかった分野なんです。演出をやるなら写真もうまくならなきゃって思ってました。パク・チャヌク監督も写真がすごくお上手ですよね。教えてくれる先生がスペインで写真を学んだ方なんですけど、最初は僕のことあんまり知らなかったみたいで、「映画の勉強してる人です」ってだけ伝えたんですよ。そしたら今でもそう思ってるみたいです(笑)。好きな映画のシーンをいくつか持ってきてって言われて、持っていったのが『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』でした。
 


— 「カマキリ-殺人者の外出(原題)」のティザーが公開されましたが、少しだけでも内容を教えてもらえますか?

最近ではなかなか見られない、かなり挑戦的なジャンルの作品です。SBSで放送予定なんですが、こういうタイプのドラマをテレビで観られるというのは新鮮で、面白いと思いますよ。それに、コ・ヒョンジョン先輩の演技にもぜひ注目していただきたいです。「カマキリ-殺人者の外出(原題)」は、僕にとっては感情的にけっこう大変な作品でした。僕はキャラクターを一気に作り込むというよりは、現場で少しずつ積み重ねていくタイプなんですが、母親が殺人者という状況の中でも、たくましく生きてきた姿があるので、ただ暗く演じるだけではいけなかったんです。その明暗のバランスを取るのが難しかったですね。

— 執筆や映画制作もしているチャン・ドンユンさんが、これから描いていきたいテーマとは?

欠陥や痛みを抱えた人たちの物語に惹かれますね。誰もが何かしらの欠陥を抱えて生きていると思うので、それを表現したいし、そこに人間愛とか愛が込められているといいなと思っています。それは家族への愛かもしれないし、猫への愛、あるいは男女の愛かもしれない。どんな状況にあっても、結局“愛”が人を救うと信じています。


チャン・ドンユン監督が影響を受けた映画ベスト3

1.『麦の穂をゆらす風』

ケン・ローチ監督の映画は全部観ました。最近の作品の方が好きだったりもするんですが、社会の暗部や隙間を描く彼の原点は、やっぱりこの映画にあるんじゃないかと思って、特に注目して観ました。

2.『アクト・オブ・キリング』
監督って、結局“リアルなもの”を描きたくて映画を撮るんじゃないかな。この映画を観て、そういう衝撃を受けました。リアルを描くのがドキュメンタリーであり、すごく考えさせられる作品です。いつか自分もドキュメンタリーに挑戦してみたいと思いました。

3.『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』
この映画の全てのシーンが大好きです。21世紀最高の映画だとさえ思っています。どうやってあんなシーンが撮れるのか、説明もセリフもなく、あそこまで全てを表現できるってすごいですよね。

……でも、3本だけ選ばなきゃいけないですか? 『世界にひとつのプレイブック』とか、エリック・ロメール監督の映画もぜひ入れてください!


写真提供:CINE21
出処:https://cine21.com/news/view?mag_id=107902
   https://cine21.com/news/view?mag_id=107903